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津地方裁判所 昭和31年(行)5号 判決

原告 横田元吾 外二名

被告 桑名市長

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、被告が、桑名市昭和二十九年度予算にて、西桑名森林組合こと桑員森林保護組合に対し、植林補助金として金二万五千円を交付した行為を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、原告等は桑名市の住民であるが、被告は桑名市長として、桑名市の昭和二十九年度予算中の産業経済費、農林水産振興費より西桑名森林組合こと桑員森林保護組合に対して、同組合より被告に対する優良樹の植林及び諸調査に要した経費についての補助金交付申請に基き、新植奨励補助金として金二万五千円を交付した。然れども、右組合は、営林署又は警察官吏の要求に応じ林地巡視すること、森林内の要所に火災、盗難、その他被害防止標札を建てること、森林火災に関してはその地区消防に任ずること、盗材等の被害を発見した場合は、組合員において直ちに最寄所属官署に急報すること、営林署その他公共団体の森林労務の需要に対し、組合員はその供給に応ずること、を事業目的とする組合であつて、植林を事業目的とする組合ではない。従つて右組合は桑名市より交付を受けた前記植林補助金を現実に植林のために使用していないのである。然らば被告が、桑名市昭和二十九年度予算の産業経済費、農林水産振興費より右組合に対し植林補助金として金二万五千円を交付したことは、違法且つ不当であり、又権限濫用であるといわなければならない。

よつて原告等は地方自治法第二百四十三条の二に基き昭和三十一年六月一日、桑名市監査委員に対し、右補助金の交付が違法且つ不当であるから、これを監査し、右補助金を桑名市に返還せしむべき措置を講ずることを請求したところ、同委員は昭和三十一年六月十六日附書面を以つて、右監査の結果、右補助金の交付は違法且つ不当でないから、桑名市長に対し違法制限措置を講ずる必要がない旨原告等に回答した。

よつて原告等は地方自治法第二百四十三条の二第四項に基き被告の右補助金交付行為の取消を求めるため本訴請求に及んだ、と述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告主張事実中被告が桑名市昭和二十九年度予算産業経済費、農林水産振興費より桑員森林保護組合に対し新植奨励補助金として金二万五千円を交付したこと、右組合が植林を目的とする組合でないこと及び原告等が右補助金交付に関し桑名市監査委員に対し監査の請求をなし、同監査委員より原告主張の如き回答がなされたことは認める。然し、被告は右補助金交付当時、右組合が植林を目的とする組合であると信じて右補助金を交付したものであり、而して右補助金交付については昭和三十年十二月八日の桑名市議会において、その調査を経済委員会に附託し、同委員会は同月二十三日その調査の結果を市議会に報告したので、市議会はその調査報告を承認し、昭和三十一年一月三十日の市議会において決算認定の決議をなしたものである。と述べた。

理由

原告等が桑名市の住民であることは、原告等の住所がいずれも桑名市であることによつてこれを認め得べく、被告が桑名市長として、桑名市の昭和二十九年度予算中、産業経済費、農林水産振興費より西桑名森林組合こと桑員森林保護組合に対して新植奨励補助金として金二万五千円を交付したこと、右組合が植林を目的とする組合でないこと、原告等が昭和三十一年六月一日、桑名市監査委員に対し、右補助金交付につき地方自治法第二百四十三条の二第一項に基き監査並びに措置の請求をなしたこと、右監査委員が同年六月十六日付書面を以つて原告等に対し右補助金交付は違法若しくは不当でない旨通知したことはいずれも本件当事者間に争いがなく、右補助金交付につき、昭和三十一年一月三十日の桑名市議会において承認の決議がなされたことについては、原告等が本件口頭弁論において明らかに争わないところであるからこれを自白したものと看做すべきものとする。

然し、地方自治法第二百四十三条の二第四項に基き公共団体の長の行為の取消若しくは無効確認の訴を提起するについては取消若しくは無効確認の結果につき直接具体的な利害関係を有する者、即ち当該行為の相手方及び公共団体を共同被告とすべきものと解すべきであるところ(行政裁判資料第四号一五頁、甲府地方裁判所昭和三一、七、二四判決、行政裁判例集第七巻第七号一八四六頁、同説)原告等は右補助金交付の取消につき直接利害関係を有する桑員森林保護組合及び桑名市を共同被告とせずして、桑名市長を被告として本訴を提起しているから、本訴は被告が正当なる当事者たる適格を欠くものとして不適法たるを免れない。

次に、地方自治法第二百四十三条の二第四項の訴は監査委員においてこれを監査し、普通地方公共団体の長に措置を求める権限のある事項でなければならないものと解すべきであり、そして、監査委員の監査の対象となる事項は、地方公共団体の長以下の執行機関の行為の適否にかぎられ、議会の決議には及ばないのであるから、長以下の執行機関の行為が議会の決議に基き又は決議により承認されている場合には、その行為を違法又は不当とすることによつて、結局、議会の決議そのものを監査する結果をきたすようなことは、監査委員の権限に属しないものといわなければならないところ(大阪地方裁判所昭和三〇、二、一五判決、行政事件裁判例集第六巻第二号三五九頁、同説)、前記のごとく、本件補助金交付については昭和三十一年一月三十日の桑名市議会において承認決議がなされているのであるから、監査委員と雖も右補助金交付の適否を監査する権限なく、従つて原告等も監査委員に対して監査及び措置を請求し得ない右事項を対象として、地方自治法第二百四十三条の二第四項の訴を提起することはできないものというべきである。

よつて原告等の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 西岡悌次 西川豊長)

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